大聖堂訪問記U

司祭 ヨハネ 芳我秀一

 ベルギ−北部の街アントワープを後にして、次の訪問地が、かつて交易と毛織物産業で繁栄を極めた古都ゲント(Gent)である。ゲントはアントワープから西南に約60qの所にあり、16世紀にはパリにつぐ大都市だったという。ゲントの黄金時代の面影は旧市街地に残る様々な建物や記念碑に見ることが出来る。また近年は工業都市として発展しており、ゲントは中世と現代が美しく調和する街である。そのゲントの街にそびえ立つのがゴシック様式の聖バーフ(St.Baafs)大聖堂である。この大聖堂は芸術作品の宝庫と云われ、その代表がファン・アイクによる祭壇画「神秘の子羊」である。この作品は表裏合わせて24面の絵から成り立っており、中央に描かれている子羊に象徴されるキリストの犠牲の上に人間の救いがあることを主題として描かれている。ただし、門外不出となっているためにここでしか見ることができない。まさしく15世紀フランドル美術の最高傑作である。 

〈癒しの街〉
  次に訪問したのが北海に面した水の都ブルージュ(Brugge)である。街に入った途端、15世紀にタイムスリップしたような錯覚をする。縦横に走る水路に、木々の緑といくつもの橋が風情を添え、自動車と共に馬車が狭い道を行き交い、当時の古い家並みや石畳の小道がそのまま保存されている。特に街の中心にあるマルクト広場はヨーロッパ屈指の美しい広場として知られ、ロマネスク様式の教会、ゴシック様式の市庁舎、ルネッサンス様式の古文書館や古典様式の旧裁判所といった歴史的建物に囲まれ、カラフルなカフェやお店が軒を連ねて人々の憩いの場となっている。         この日は日曜日で、市内にある聖マリア教会の礼拝に出席。聖公会やプロテスタント教会の信徒も共に陪餐が許され教派の壁を取っ払って頂いた。将にブルージュは心癒される街である。 

〈かたくなな心〉
  一般的に人は自分のことには強い関心を持つが、他人のことには無関心なものである。特に最近は頭にヘッドホーンを掛けて音楽を聞きながら通勤したり、テレビゲームやパソコンに熱中して自分だけの世界に閉じこもっている人を見る。これでは人と人との心の触れ合いが失われ、自然界や人間社会からの感動する出来事を見聞きすることを拒否してしまう。つまり、自分が世界の中心で、自分は絶対に正しいと思いこんでしまうのである。このような聞く耳を持たず、相手を理解しようとしない「かたくなな心」を持つ者をイエス様は厳しく非難されたのである。『まだ、分からないのか、悟らないのか、心がかたくなになっているのか。』(マルコ伝8:17後半)

〈広場と会話のある街〉
  英語で、市場のことをマーケット(market)というが、ドイツ語ではマルクト(markt)である。ブルージュ、ゲント、アントワープ、ブリュッセルのどの街にも中心に大きな美しい広場があった。そこでは市場が開かれ、新鮮な野菜、卵、チーズ、花が売られ、売る人も買う人も互いに会話(communication)を楽しむのである。そして、人々は助け合い、広場を中心として街は大きく発展していった。彼らの街を見ていると人々が互いにコミュニケーションを取って理解し合うことの大切さを教えてくれる。かつて復活の主が暖かいまなざしで弟子たちに語りかけたように、私たちももっとお互いに声を掛け合いたいものである。


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