勇気を出せ

司祭 パウロ 上原信幸

 梅雨に入り、毎朝の天気予報が気になる日々ですが、朝の情報番組を見ていると、どこのチャンネルでも天気予報と共に、必ずといっていいほど、今日の運勢といった占いのコーナーがあります。あらためて日本人は占いが好きなのだと感じます。
 占い師や、霊能者といわれる人がよく使う手法に、コールド・リーデングというものがあります。コールドとは、「準備もなくその場で」、リーディングとは「心を読む」とか、「占う」といった意味です。そして、その方法の一つに、まったく違う2つの性格を提示するというものがあるそうです。
 たとえば、「あなたは外向的で愛想もよく、つきあいがいいときもある反面、用心深く、引きこもってしまうこともある。」こういわれるとどんな人でも思い当たることがあるわけです。
 誰にでも二面性があり、意志が強い人であれば、思い通りに意志が貫けなかった場合に挫折感が大きく、自分は意志が弱いと感じてしまうものです。
 優しい人であれば、相手を悪く思ってしまうと、「なんて優しさのない人間なのだろう」と感じてしまうのです。意志が強いがゆえに弱いと思い、優しいがゆえに優しくないと感じてしまう。
 コールドリーディングを行う人たちは、このような方法を使って、相談者に「この人は、本当に自分のことをよく理解してくれている」と思わせるそうです。
 言ってみれば、人間はだれしもとても複雑で、さまざまな側面をもっています。そして、悪い人たちは、それを詐欺や霊感商法などに用いるのです。

  最悪の状況

 パウロは伝道旅行の最後でエルサレムで捕えられ尋問を受けます。パウロには多くの仲間がおりました。しかし、彼を疎ましく思う者もたくさんいました。いろいろな所に敵対者がいたのです。そしてエルサレムでも、パウロをめぐって最高法院は大混乱し、この男を殺してしまえ、という恐ろ しい言葉が飛び交う状態にありました。そのような状況でも、パウロは常に大胆でかつ勇敢にも見えました。けれども、神様は「勇気を出せ」とおっしゃいます。実のところパウロも、とても不安でたまらなかったのでしょう。

  なければ出せない

 「勇気を出せ」などと言われても、勇気を出せる状況ではないのだから、出そうにも出せません。
 「勇気を出し、力強く証しせよ」
 この言葉は、パウロがそのようになれないからこそ与えられた言葉です。
 たとえパウロが勇気を持っていなくても、神様が与えて下さり、それをパウロが出すことが求められました。証しする力を持たなくても、神様が持たせてくださり、それを使うのがパウロということになります。
 もし、私たちが、自分の力のなさを痛感するときどうすれば良いのでしょうか。 神様が恵みと憐れみを賜るとき、殊に全能を現される―これは私たちが慣れ親しんだ祈りですが、そのことに思いを向けることが出来れば、それはただ2000年前にあった不思議な出来事というだけではなく、私たちの物語にもなるのだということを、覚えたいと思います。


2013 the Cathedral Church of St.Michael diocese of kobe nippon sei ko kai