クリスマスのオリエンテーション

司祭 パウロ上原信幸

 もし、欧州の町で方角が分からなくなったとして、正しい方向を見つけるために一つの良い方法があります。
それは、教会の向きを見ることで、聖堂は特別な理由が無い限り東向きに建てられています。
 キリスト教がローマ帝国の中で西へ西へと広がり始めた時、聖地の方角にむかって聖堂を建てるという習慣ができました。古い教会であれば、ほとんどこの原則が守られています。
そして、聖堂を正しい方角に向けて建てることを、東(オリエント)の方角に向けるということで、オリエンテーションと言うようになったそうです。
 また、葬送式の時に、棺を正しい位置に置くことも、同様の理由で、オリエンテーションと呼ばれています。
会合などの始めに、説明や注意を行うことをオリエンテーションと呼びますが、この「正しい方向にむけること」が語源となったわけです。
 おそらく磁石と地図を頼りにポイントを捜していく、オリエンテーリングというゲームも、同じ語源から名付けられたのではないかと思います。

■ここはどこですか?-----------------------------------------------------------

地図を片手に、英国の街を歩いていた時、目的地の方向が分からなくなり、道行く人をつかまえて地図を差し出し、「ここはどこですか(Where is here?)」と尋ねたことがありました。
すると、その人はけげんな顔をしながらも、意図することが通じたのか、地図を見て現在地を教えてくれました。
本当は「私はどこにいるのか(Where am I?)」と尋ねるのが正しいということを、その時に教えて戴きました。
場所自身が、自らを見失うことはありえず、私自身が自分の居場所を見失っているのですから、まさに「私はどこにいるのか?」と尋ねるのが正しい表現だと、そのときつくづく思いました。

■生活の指針-----------------------------------------------------------

教会暦で、新しい1年の始まりはクリスマスの4週間前の日曜日になります。
祝日で1年を始めるのではなく、クリスマスを迎える準備の時から新しい1年を始めるのです。
準備といってもツリーを飾ったり、ケーキを注文することではなく、自分の精神と生活を正しい方向へと向けることを中心とします。
ですから、この4週間の間は結婚式などのお祝いごとをひかえて、静かに自分たちの生活を振り返る時にしてきました。
それは、日本で年末年始に1年間の仕事などを振り返り身辺の整理をして、新しい年の計画をたてる姿によく似ています。
もちろんこの時期は師走にあたり、日本だけでなくどこの国でもクリスマス商戦が繰り広げられ、賑やかな曲がガンガン鳴り響き、静かに物事を考えることが非常に難しい時期です。
しかし、キリスト者は特にこの時期を「精神と生活を正しい方向にむける時期」として大切にしてきました。
冬山では、ほんの数メートル先のところに山小屋があっても見いだせずに通り過ぎ、登山者が遭難することもあります。
今、私達を取り巻く状況は政治・経済・環境と、まるで険しい山の中にいるように、困難な問題が山積みとなっています。
御言葉と祈りを、地図と磁石として、私たちの歩みを進めたいと思います。


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