わたしたちを平和の道具に

司祭 アンデレ中村 豊

 今年の神戸市民クリスマスは初めての試みとして、聖ミカエル教会を会場に超教派による礼拝が行われた。礼拝の中で「平和のあいさつ」の後、セバスチャン・テンプル(Sebastian Temple)作曲の「あなたのへいわの」(聖歌集増補版第1番)が歌われた。歌詞はアシジの聖フランシスコの「平和の祈り( Make me a channel of your peace)」から引用されたものであるが、日本語訳者は不詳となっている。

歌詞の素晴らしさ
 YMCAちとせ幼稚園と西神戸幼稚園11月の礼拝聖歌としてこの曲を子どもたちが歌った。3回繰り返しがあり長いということで礼拝時には1番の後、繰り返しの部分を省いて2番と3番を歌うことにした。翌12月の聖歌はクリスマスにちなんだ曲が選ばれていた。しかし選曲が不適切で相談の結果、12月とクリスマス礼拝にも「あなたの平和のどうぐに」を、今度は省略なしで全曲歌うことになった。子どもたちは予想に反して、先生が驚くほどに歌詞をしっかりと覚えておりしかも、歌声は大人のそれよりも数段すばらしく、聴く者にある種の感動を与えた。

2つの引用
 英国ではこの30年間、私の知る限り2回、この曲と「平和の祈り」が用いられ話題となった。
 1979年、マーガレット・サッチャーが労働党政府を打ち破って政権を獲得したときのことである。サッチャーが首相になりダウニング街10番地の首相官邸に入るとき、これからの難局を英国民が互いに痛みを分かち合い、赦し、愛しあう姿勢で臨まなければならないことをこの祈りを引用し表明したのである。
 2番目はウエストミンスター寺院で行われたダイアナ妃の葬送式である。ブレアー首相がコリント第一の手紙13章「愛の賛歌」の箇所を朗読した後、ウエストミンスター・カレッジ聖歌隊により「あなたのへいわの」が歌われ、衛星生中継を見ていた全世界の多くの人たちの涙を誘った。

わたしが作詞者
 クリスマスイブ、一通のクリスマスカードが届いた。姫路の仁豊野からである。このようなところに知り合いは全くいない。一体だれからだろうか、おかしいなと思いつつ開封すると、クリスマスカードと共にメッセージがあった。   
 「昨晩、神戸のすばらしい光の礼拝Congratulations! こちらのひとりのsisterが持って帰ったプリントのなかの1."あなたのへいわの"のpageの下は訳詞者は不詳とかいてありましたが・・・・・・そのセバシチャン・テンプル(作曲の)訳は、30年くらい前に賢明女子学院の生徒たちのためにわたしが訳したものです。まだ生きておりますので、お知らせいたしたいと思いました。よくうたってくださって、うれしいです。」Evelyn Westman (Presentation
of Mary)
 聖母奉献修道院のシスター・エブリンはカナダ出身で日本滞在は50年以上に及ぶ。姫路城のそばにある賢明女子学院で音楽の教鞭をとっておられたとき、この曲を訳されたということである。超教派のクリスマス礼拝が縁で作詞者が判明したことは誠に嬉しい限りである。
 21世紀最初の年も終わりを告げまもなく2002年。私たち一人ひとりの手によってキリストが望む真の平和を人々に知らせ、その姿勢を示すことを今ほど求められている時はない。

平和の祈り
主よ、わたしを平和の器とならせてください。憎しみがあるところに愛を、争いがあるところに赦しを、分裂があるところに一致を、疑いのあるところに信仰を、誤りがあるところに真理を、絶望があるところに希望を、闇あるところに光を、悲しみあるところに喜びを。・・・・・・
アシジの聖フランシスコ


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