隣人との平和

司祭 ヨハネ 芳我秀一

 神戸に来て二度目の冬を迎えましたがとても暖かく感じます。また近年は海水の温度が上昇して従来の魚の捕れる場所と旬の季節が変わってきていると云われますが、地球温暖化という自然環境の変化を肌で感じるようになってきたということでしょうか。

〈人工と自然〉
 解剖学が専門の養老猛司さんは著書『一番大事なこと』の中で次のように述べています。「人間の歴史は科学技術の進歩と共に自然が破壊されて、文明(大都市)がつくられていく歴史である。人間の脳でイメージされたことが、現実に人間の手でつくられていく。机や椅子も脳で考えたことが現実となったものである。このようにして物がつくられ、大都市がつくられ、人口が集中する。このように人間の脳によってイメージされた物を現実につくり出していくことを人工という。一方、その反対が自然である。自然は人間の脳によってつくり出されたものではない。しかし、人工的なものは自然からエネルギーや材料となる資源を奪って人工都市などをつくるために自然を破壊してしまう。」と。つまり人間は長い歴史の中で自らの知恵によって自分の思い通りにこの世界を支配しようとしてきたということです。そして人間もまた自然の一部ですから人工的な物は人間をも破壊したり、追い出したりするということです。このような歴史は弱肉強食の歴史であって、勝ち組と負け組、持てる者と持てない者といった分断の壁を至る所につくりだして独善的で排他的な人間や組織が次々と生まれてきているということです。その結果、現在起こっていることは主に工場などから排出される二酸化炭素などの温室効果ガスによる地球温暖化による環境破壊であり、また大量破壊兵器による戦争だということです。そして人類は今後も文明化(人工化)の道を歩み続けるならば、その行き着く先は地球の生体系の破壊であり、人類にとっても大きな危機です。将に人工と自然のバランスを如何にとるのかが世界的な緊急課題と云うことです。

〈思いやる心〉
  このような厳しい現実の中で教会はどのような役割を求められているのでしょうか。
  昨年九月頃、英国聖公会、アメリカ聖公会、大韓聖公会及び日本聖公会などの主教さんたちが北朝鮮を訪問する計画でしたが、準備が整わずに実現しなかったと云われています。しかし、武力によって身を守ろうとする北朝鮮に対して、教会が直接対話によって彼らが閉じこもらないように壁を破る努力をしようとしたのです。実際に壁の向こう側で生活している人々に会い、対話によって相手を理解する姿勢が重要だということです。 『神は、独り子を世にお遣わしになりました。その方によって、わたしたちが生きるようになるためです。』(ヨハネの手紙T4:9) 私たち人間は孤独です。必ず人は一人でこの世を去っていくのです。神はそのような私たちを憐れんで下さって御子イエス様をこの世に遣わされました。そして、現在も復活のキリストとして暖かいまなざしを一人一人に注いで下さっています。是によって人は心が暖められ生きる気力が生まれてくるのです。ですから私たちもいかなる人々であっても思いやることのできる者でありたいと思います。そしてこの人と人、国と国を分断する壁を打ち破るところに今日の危機を回避する希望があるのではないでしょうか。 


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