「見えてますか!」 |
司祭
ヨハネ 芳我秀一
|
30年も前の事である。四国の山間にある小さな温泉宿で教会の修養会が開催された。澄んだ空気とせせらぎの音がとても心地よく黙想するには最適の場所である。豊かな自然の中で、講師の指導に従って黙想していると心癒される思いがした。 やがて夜のとばりも降りて夕食をいただいた後、聖書の輪読会が始まった。参加者は全員が車座になり、マルコによる福音書を最初から最後まで、一人が五節づつ読み継いでいく。順調に行われて、中頃に達したときのことである。ある牧師さんがこんな提案をした。「それでは全ての灯りを消して読んでみましょう」と。その時、参加者の多くがビックリした。人里離れた山の中である。外は真っ暗で、部屋の灯りなくしてどうして読むことが出来るだろうか。誰しもが呆れかえっていた、その時である。真っ暗闇の中から聖書のみ言葉がはっきりと聞こえてきたのである。初め何が起こっているのか全く判らなかったが、参加されていた目の不自由な信徒の方が点字で聖書を読んでおられたのである。この時は将に目から鱗が落ちる思いであった。普段「見える」と当然のように思っていたことが、実はそうではなかった。光があって人は見ることが出来る。人は何かの助けがなければ見ることも、生きることも出来ないという事である。 〈教会の歩むべき道〉 〈記念の年〉 |