神様の気まぐれ

司祭 パウロ 上原信幸
 春が遅いと感じているうちに店頭には梅酒用のお酒や、道具が並び出しました。そうこうしているうちに梅雨に入っていくのでしょう。梅酒は日本でポピュラーな果実酒ですが、教会生活の中ではなんといってもぶどう酒でしょう。
 葡萄酒は、ノアの箱船の物語にでてくるように古くから親しまれてきました。物理学者の竹内均氏はその著書の中で、ノアの箱船が漂着したアララト山の北側は、口当たりの良い濃厚なワインの産地で、ノアはそのようなワインを飲み過ぎて酔いつぶれてしまったのではと書かれています。(「科学が証明する聖書の真実」)
 さて、長い歴史の中でブドウとワインの品種改良に大きな貢献があったのは、教会の修道士さんたちでした。有名なシャンパンのドン・ペリニオンも修道士さんの名前に由来します。また遺伝の法則を発見したメンデルも、ブドウの品種改良に携わる修道士でした。

神様のなさることは美しい

 最初メンデルは司祭として、病院や代用教員として学校に派遣されましたが、優しい性格が災いして、うまくいかなかったということです。しかし、優秀だったので大学で専門的に学ぶことを勧められ、ドップラー効果で有名なドップラー教授に師事し、学問を修めました。
卒業後、教員試験を受けることになりましたが、結果は不合格でした。原因は生物の試験が悪かった為です。しかし実は、ウィーン大学の教授が知る当時の科学知識よりも、代用教員のメンデルの考えが進んでいた為に,不合格になってしまったわけです。
 落第した彼は、その地方の主要作物だったブドウの品種改良の任にあたります。当時、異なった性質をもつものを掛け合わせることによって、新しい特徴を持つものが生まれることは知られていました。けれども同じ親から生まれてくる子どもでも統一性がないので、遺伝には法則性がなく、それは「神様のきまぐれ」と考えられていました。 しかし、メンデルは「神様が作られた世界は、美しいルールがある。遺伝にも必ずあるはずだ。神様のきまぐれや偶然などではない」と考えたので、ブドウより成長の早いエンドウ豆で、何万株にもおよぶ気の遠くなるような実験を繰り返したわけです。
 そこで彼が発見した法則は、残念ながら長く評価されませんでした。学者達の関心が、当時発表されたダーウインの「進化論」に向いていたからです。現在では、ダーウインの仮説に多くの不整合があり、学校で教えられる国も減ってきているそうですが、当時は見向きもされなかったメンデルの遺伝子の考え方が、現代の最先端をいくバイオテクノロジーを支えているわけです。

あるものは百倍に

 イエス様は、人々に種まきのたとえをされました。実りがないように感じる時、徒労ではないかと感じる時、無理解に苦しむ時、畑の実りをイメージしなさいというものです。「蒔かれた種も、若干は失われることはある。しかし、失った種を数えて落ち込むのではなく、実りの希望を忘れないように、信念をもちなさい」と教えられたのです。
 教会暦では、命と成長を表す緑の祭色の季節に入りました。野の草木にまけないよう成長し、神様と人々を喜ばせる実りをもたらすことができるように過ごしていきたいと思います。


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